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カツオは生後1年ほどで、故郷の南の海とエサの豊富な北の海とを行き来する生活を始めます。ちょうどそのルートにあたるのが、日本の太平洋側。早春から夏にかけて、カツオは九州、四国沖から東北、北海道沖まで北上。たっぷりエサをとって、秋の訪れとともに産卵のため南の海に帰ります。北上するのが「上りガツオ」、南下するのが「下りガツオ」。「南の海」発、「北の海」行きの長距離列車、といったところでしょうか。
私たちにいちばん身近なカツオの味といえば、なんといっても鰹節。みそ汁の「だし」には欠かせない、天然のうまみ調味料です。カツオの身を煮たものをいぶしては乾かす、といった作業をくりかえしてつくられる鰹節は、一見、古い木片のよう。パック入りの「花がつお」しか見たことがないという人も今は多いでしょうが、昭和のはじめ、鉋(かんな)に受け箱をつけた器具で鰹節をけずるのは子どもの仕事だったといいます。
カツオ料理の中でも有名なのが「カツオのたたき」。カツオの一本釣り漁がさかんな高知県を代表する名物です。ブロック状のカツオの身の表面だけを火であぶったもので、さしみのように厚めに切って、ミョウガやネギなどの薬味をたっぷりそえてポン酢などをかけて食べます。たたいてあるようには見えないのに、なぜ「たたき」という名前がついたのでしょうか?それにはいろいろな説がありますが、カツオの身の表面に調味料や薬味をつけてたたいて味をしみこませたことに由来するようです。
江戸時代、その季節で最初にとれた作物や魚介類、すなわち「初物(はつもの)」を食べることは、江戸っ子にとって重要なイベントでした。なかでもとりわけ彼らが競って買い求めたのが「初鰹」。初夏に神奈川県沖でとれる「初鰹」は、一本が今のお金で10万円をこえる時期もあったそうです。とはいえ、彼らの目的はカツオを味わうことではなく、誰よりも先に「初鰹」を食べたと自慢すること。江戸っ子は「味より見栄」だったようです。